公共の場でバリアフリー化が進み、身近になった玄関スロープですが、自宅に取り入れようと考える方はまだそう多くないかもしれません。車いすで使うイメージが強いからでしょうか。車いすの利用者がいなくとも、「あったらいいな」という場面は意外と多いものです。


玄関スロープの設置を考える上で必要なことはなんでしょうか。ここでは
- 玄関スロープの活用シーン
- どんなタイプのスロープがあるか
- 設置で一番重要な幅と傾斜角度
について考えてみましょう。
Contents
これは便利!玄関スロープはこんなときにも活躍
設置するなら日常生活に活かせると嬉しいですね。玄関スロープがあって良かった!と思う場面を考えてみましょう。
車いす | ベビーカー | 自転車・バイク | カート類 |
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幅60〜70cm | 幅40〜65cm | タイヤ幅3〜15cm | 幅50cm前後 |
車いす
車いすでの外出に玄関スロープはなくてはならないもの。少しの段差も安全な移動の妨げになるからです。固定スロープであればひとりで行き来できる方も。スムーズな移動が叶う仕組みは、利用者の外出意欲を向上させます。
ベビーカー
階段や段差では持ち上げなければならないベビーカーも、スロープがあればスムーズ。お出かけ帰りに眠ってしまった子どもを降ろさず玄関まで運ぶことができます。
自転車やバイク
大事な愛車の保管場所を玄関そばに構えている方も多いもの。雨が降ってきたときにお客さまの自転車を一時的に軒先に入れたいという場合にも、玄関スロープがあれば簡単に移動できます。
カート類
荷物をたっぷり積んで重くなったカートやキャリーバッグ・スーツケースなどは、いずれも段差があると運ぶのに苦労します。玄関スロープを利用すれば、持ち上げたり車と玄関を何度も往復したりする必要はありません。
目的と頻度で選ぶ簡易型スロープと固定型スロープ
玄関スロープには取り外し可能な簡易型と外構工事を伴う固定型のものがあります。使用目的と頻度を考慮して選びましょう。
①簡易型スロープ
玄関スロープをたまにしか使わない、一定期間しか必要でない、小さな段差に対応したいといった場合には、簡易型スロープを選べば足りるでしょう。介護・福祉用品としてレンタルもできるので、突然必要になったときでもすぐに取り入れられる方法です。
可動式スロープ

介護用品として市販されているものの多くは折り畳み式で設置がかんたんです。幅は70〜80cmが主流。設置する場所に応じた様々な長さのものが販売されています。使用しないときには畳んで、移動先への持ち運びも簡単です。
取り入れやすい安価なものから丈夫な造りの高価なものまで幅が広く、選択の幅があります。
据置式スロープ
移動の必要がないのなら据置式のスロープを選びましょう。アルミ製や集成材など様々なものが市販されています。
幅や長さの種類も豊富で複数個を組み合わせることで好みのサイズに対応させるものも。設置したあとはそのまま据え置くため、不便のないよう置く場所の環境をよく確認しましょう。ボルトで固定することでより安定感が得られます。
市販品で対応できない場合はオーダーという手も。自宅の段差や幅に合わせた傾斜のものを造ってもらえば、より安定感のある使いやすいものができます。
②固定型スロープ
日々出入りに玄関スロープが必要な場合は、丈夫で安全性の高いものを設置すると安心です。特に電動車いすのような大型で重いものは、簡易型では不安を感じることも。設置するスペースの問題などで簡易型では対応しきれなかった玄関も、固定型スロープを新たに造作することで使いやすくなります。
いまの玄関を大きく変えたくないなら簡易型、これを機に使いやすい玄関をというのなら固定型と考えてもいいでしょう。
玄関スロープは目的にあった適切な幅と傾斜で設計を
コストや施工期間はかかるものの、安心感があって、見た目もよく仕上がるのが固定型スロープです。デザイン性も取り入れ、その家の外観に合わせた意匠のものをあしらう家も増えています。
設置のときには基準を車いすに合わせることがおすすめです。車いす仕様で造れば、ほかの用途での利用も十分カバーできます。注意が必要な点を見ていきましょう。
スロープの幅
車いすの幅は、手動は630mm以下、電動は700mm以下とJIS規格で定められています。いずれを利用する場合でもスロープ幅は100cm前後あれば、ベビーカーやキャリーワゴンでも余裕をもって通ることができます。なお、180℃方向転換をする場合は150cm前後の幅が必要となります。踊り場を設ける場合は注意しましょう。

国土交通省の制定したバリアフリー法の基準によると、傾斜路(スロープ)の最低限のレベルとして「幅は120cm以上」とされていますが、これは「車いす利用者と人がすれ違える」という条件で考えているからです。バリアフリー法は公共の建築物に対して定めたものなので、個人宅の設備とは考え方が異なります。
スロープの傾斜角度
車いすの安全な走行を考えたとき、段差は大きな障害となります。この段差を解消するのがスロープの役割ですが、角度によって利用者の負担は大きく変わります。傾斜角度は、段の一番上から一番下までの高さに対して、どれだけの長さのスロープを確保できるかで決まります。50cmの段差があると仮定して、具体的にみていきましょう。
①1/12勾配(傾斜角度5度)
段差50cm×12倍=スロープ長600cm
電動・手動、どちらのタイプの車いすであっても利用しやすいのが傾斜角度が5度までのスロープです。介助者が手動の車いすを押す場合に、この角度であれば無理なく傾斜を押し上げられます。下るときもスピードが出過ぎず、双方に負担がありません。
②1/8勾配(傾斜角度7度)
段差50cm×8倍=スロープ長400cm
電動車いすであれば問題なく走れる角度ですが、手動の場合、本人が動かすことは難しいといわれています。介助者がついている場合であっても下りには注意が必要です。
③1/6勾配(傾斜角度9.5度)
段差50cm×6倍=スロープ長300cm
電動車いすで上ることは可能ですが、本人が手動車いすを操作することはできません。介助者がついていても慎重に利用しましょう。特に下りの場合は注意が必要です。介助者が後ろ向きで歩くことで車いすより先に下るようにし、利用者が前に倒れることを防がなくてはなりません。

スロープの素材
玄関に設置するスロープは雨に濡れて滑りやすくなることも。滑りにくい素材を選ぶ、滑り止め加工をするなど、足元を取られない工夫が必要です。

スロープの適正値
幅 | 100cm前後(踊り場は150cm前後) | |||
傾斜角度 | ![]() ![]() |
|||
1/12勾配
(傾斜角度5度) |
1/8勾配
(傾斜角度7度) |
1/6勾配
(傾斜角度9.5度) |
||
電動車いす | 〇 | 〇 | 〇 | |
手動車いす | 〇 | △または× | × | |
手動+介助者 | 〇 | 〇 | △ |
まとめ
車いすを基準として考え、適した幅と傾斜の玄関スロープを設置しておけば、いざ利用するときになって「幅が足りなくて使いにくかった……」ということもなくなります。
玄関スロープのポイント |
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玄関スロープは子育て期から活用できます。脇にデザインや植栽をあしらって、普段の生活にもなじむ造りのものなんて素敵ですよね。日常に組み込んで上手に使えばとても便利な設備です。正しい知識で後悔のない玄関スロープを造りましょう。